Same Old Story
手紙の主
- Stalker the Letter Sender
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「うわ、なんだこれ」
一月ぶりに出張先から帰宅した僕を迎えたのは、ポストから溢れて地面にばら撒かれるほどの、大量の封筒だった。
「こんなにたまるもんなのか、まいったな」
ひとつひとつ拾い上げながら、僕はあることに気が付いた。どの封筒にも、差出人の名前が書かれていないのだ。
「誰からの手紙だ?」
宛先、つまり僕の名前は全て同一の筆跡、なかなかの達筆で書かれている。
僕は拾い上げた封筒を持って家のドアをくぐり、それらの開封作業に取り掛かった。
「古い方から見ていくとするか」
一番古い封筒の消印日付は、僕が家を出た翌日、約一ヶ月前。
「便箋は一枚か。差出人は?」
差出人の名前のない便箋には、宛名と同じく丁寧な文字でこう書かれていた。
“拝啓、突然のお便りをお許しください。また名乗らない無礼もどうかお許しください。”
「今は名乗れないわけが……何だこりゃ?」
文章は続く。
“実は私、長い間あなたを見続けていました。朝夕問わずあなたのことを考え、あなたのことであれば何でも知りたいとさえ思うに至りました。”
「何だこれ……」
“あなたの趣味、あなたの好きな料理、好きなテレビ番組、好きな歌手、好きな煙草、”
「うわ……」
何も言葉にならない。びっしりと並ぶ文字を見つめながら、頭の中はストーカーとか盲目的な愛情とか、週刊誌にあるような安っぽいコピーでいっぱいになった。
「こんなもの、まともに読んでたらこっちがおかしくなる」
全部捨ててしまおうとわしづかみにしたとき、妙な触感があることに気が付いた。一枚の封筒を開けると、中からごみ取りに使った後のようなガムテープが出てきた。
“今日もあなたのお部屋を掃除していたら、女の髪の毛が見つかりました。私というものがありながら、”
「……!」
なんてこった。この手紙の主は、僕の部屋へ入り込んで勝手に掃除をしているのか。
「今日も、ってことは」
おそらく、僕が不在の間に何度も忍び込んでいるのだろう。僕は一番新しい日付、昨日の封筒の口をやぶって開けた。
“あなたが何もおっしゃらないものだから、私も心を決めさせていただきました。他の女の存在を認めながら、なお生き恥を晒し続けるわけにはいかないのです。”
文字通り青ざめながら、一人思い詰めていく手紙の主の決意表明めいた文章を読んでいると、インターホンが鳴った。女性の声が用件を告げる。
「郵便です」
「あ、はい、今行きます」
女性の配達員か、珍しいな。最近配属になったんだろうか。
「ご苦労様です」
そう言いながらドアを開けて、違和感に気付いたときにはもう手遅れだった。
郵便? ただの郵便なら、ポストに入れれば済むだろう? 宅配便とか、小包なんかじゃあるまいし。
「君は……」
ドアの向こうに立っていたその女は、僕が握り締めたままだった手紙を見ると、寒気のするような薄気味の悪い笑みを浮かべた。
振り上げた右手には、包丁が握られていた。
Fin.