monologue : Same Old Story.

Same Old Story

割れた窓

「人間とは本質的に怠惰なものだから」

ホームで電車を待つ僕の隣で、初老の男二人が会話している。

「何年か前に話題になったでしょう。どこかの地下鉄の治安で」
「あの、割れた窓がどうのこうのという」
「それです。先に誰かが悪事を行っていたら、自分の悪事は責められないように感じるのでしょう」

小さな違反行為も見逃さないことで、大きな違反を未然に防ぐやり方がある。数年前にこれを取り入れたある都市では驚くほどの効果があったという。

「慣れ・惰性、これらを排除することで事態は好転するのです」
「なるほど」

彼らが何について話しているのか気になり始めたとき、聞き手になっていた側が言った。

「逆に」

少し間が空く。考えをまとめてでもいるのだろうか。

「慣らすことで操ることも可能でしょう」
「というと?」

さっきまで話していた側が、今度は聞く側にまわる。

「例えば、ホラー映画や小説。それらが凶悪犯罪の根元になっていないとは」
「言い切れませんな」

なるほど。ここ最近増えた犯罪には、有名な映画を模倣したものもいくつかある。

「そういう表面的なやり方もありますし、もっとわかりにくいやり方もあります」
「例えば?」

例えば、どんなものがあるのだろう。映画のような表面的なものではなくて、もっとわかりにくいようなやり方というと……。

「例えば、もっと手軽な媒体。取り入れるのに手間のかからない」

そのとき、ポケットの中で携帯が鳴った。取り出してみると、どうやら購読しているメールマガジンが届いたようだった。

「あ、これ」

内容に少し目を通したところで、思わず声に出してしまった。隣に目をやったが、さっきまで会話をしていたはずの二人の男はどこにもいなかった。

Fin.

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