monologue : Same Old Story.

Same Old Story

拾い物

「昨夜、落とし主が現れまして」
「え、ああ」
「是非とも直接お礼が言いたいそうです」
「あの、それって義務ですか」
「いえ、そんなことはありませんが」
「じゃちょっと、僕、その……」
「若い綺麗な娘さんでしたよ、これを機会に親しくなってみては」
「はあ」

おせっかいな警察官に、僕がその落とし主に会うことを承諾した、ということにされてしまった。彼なりに気をきかせたつもりなのかも知れないが、僕にしてみれば大きなお世話でしかない。

先週、地下鉄の駅構内で拾った落し物。二人分のイニシャルが入った小さめの指輪。

「あれ、間違いなく男からのプレゼントだよなあ」

おそらくペアリングだと思われる、シンプルなデザインの指輪が脳裏に浮かぶ。

「しかも、よりによって時間と場所が」

指定された日時はクリスマスの午後八時。場所はイルミネーション灯る駅前広場。

「間違いないな」

僕に一言お礼を言った足で、恋人のもとへ向かうつもりだろう。

カップルでごった返す駅前広場の隅で、僕は見知らぬ女を待つ。

「ああ、あの人だな。聞かなくてもわかる」

いかにも人を探している、上品な格好の美人が一人。僕が声をかけると、確かに彼女は落とし主だと名乗った。

「あなたが拾ってくださったんですか。ありがとうございます」
「いえいえ、偶然拾っただけですから」
「その、お礼がしたいんですけど」

恋人が待ってるから手早く済ませたい、なんてとこだろう。

「実はあれ、恋人からのプレゼントで」
「へえ、なるほど」

言われなくても、現物を見れば誰にだってわかる。

「って言っても、その人とは先週別れちゃったんですけど」
「へえ、なるほど……」

思わず口に手を当て、はっとなる。間違いなく失言だ。

「実はあの指輪、投げ捨てたつもりだったんですよね」

彼女は笑っていた。

「でもこれも何かのご縁、ってことで」
「……縁?」

予想外の展開に期待する僕に、彼女は小さな金属のかけらを差し出して言った。

「一割どうぞ。小さいですけど」
「は?」
「指輪、つぶしてきたんです。一応シルバーですから」

そう言って僕の手にそのかけらを乗せて、彼女はにっこり笑った。

「……どうも」
「どういたしまして。それじゃ失礼します」

颯爽と振り返り、歩き出す彼女。

「……あの」

彼女が振り向く。

「その、予定がないなら、今から食事でも」

彼女がにっこり笑う。僕は、彼女の指に似合う指輪のことなんかを考えていた。

Fin.

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