monologue : Same Old Story.

Same Old Story

その瞬間を

「既存のカメラじゃだめなんだよ」
「そんなこと言ったって、君の欲しがるようなものは」
「とにかく、今あるものじゃ納得できない」

開発部門の技術者が、ため息をついて頭をニ三度かく。

僕は、スクープ専門のフリーカメラマンだ。今使用しているカメラの性能に満足できず、直接要求を伝えるために彼を訪ねた。

「……どんな機能が必要なんだっけ?」
「構えた瞬間にズーム、ピント調節、補正光量の調整とあと……」
「ああ、わかったわかった、よくわかった」

彼がまたため息をつき、面倒そうに言う。

「君の欲しがるカメラは作れない。どんなに高性能でも、人間の眼にはならない」
「…………」
「君が見たものをそのまま写真にはできないってことだよ」
「……それだよ」

きっと僕が欲しがっていたのは、眼のようなカメラなのだろう。

「それだ」

僕は早速彼にそのアイデアを伝え、設計をしてもらった。首をかしげる彼の姿が思い出される。

「こんなものがうまくいくだろうか」
「わけないさ。僕の眼から映像を取り、それを記録する合図を送るだけだから」
「しかし、こんなものを装着したら、君の眼を痛めることにならないかと」
「構わないよ、そんなことくらい」

僕の眼には今、映像を伝えるための装置と光ファイバー、撮影の合図を送るセンサーが取りつけられている。

「これで僕は、見たものをそのまま写真にできる唯一のカメラマンになったわけだ」

僕の自信は確信へと変わり、どの週刊誌にも僕の写真が掲載される日が続いた。さまざまなメディアが僕の写真を称賛し、カメラマンとして史上有数の評価を受けた。

「その後どうだい、眼のカメラは」
「いたって順調だよ。故障もしないし、欲しい絵が確実に撮れる」
「そりゃそうさ、君が見たものをそのまま写真にするんだから」
「ああ。スクープがない日がつまらなく思えるくらいだね」

それを聞くと彼は、少し複雑な表情でこう言った。

「技術者としてではなくて、友人として君に忠告するよ。そのカメラは、いつか君を滅ぼす。君が根っからのカメラマンであればなおさらだ」

僕はその場は愛想笑いで済ませたが、内心彼に対して憤りを感じていた。彼は、自分が技術者として評価されないのを不満に思っているだけなのではないだろうかと。

しかし、それは僕の思い上がりで、僕はそれを身をもって感じる結果になった。

(今日は寒いな)

しばらく写真を撮らない日が続いたある朝、僕はスクープを求めて出かけることにした。少し遠出をしようと駅へ向かい、ホームで電車を待つ間、ある考えが頭をかすめた。

(今の僕なら、スクープでなくとも素晴らしい写真が撮れるんじゃないか?)

僕は、世界に唯一『眼のカメラ』を持つカメラマンだ。

(例えば、電車ひとつにしても、僕のカメラなら)

ホームに電車が近付いてくる。僕は急激に、撮影意欲が高まるのを感じていた。

(僕の眼とカメラなら、きっと素晴らしい写真が)

自然と足が動く。電車が近付く。

「あ」

ふいにバランスを崩し、自分がホームから落ちる瞬間が眼に入る。

(しまった……!)

無意識のうちに正面からの構図を求め、移動していたのだ。電車がホームへ滑り込む。

「……しくじったな」

僕は、最後の撮影合図を送った。

Fin.

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