monologue : Same Old Story.

Same Old Story

訃報マガジン

携帯電話が、物悲しいドナドナのメロディを鳴らして僕らに訴えかける。

「お、新着」

ディスプレイに映し出された文字を、隣の席に座っていた友人が覗き込む。バスの乗客全員が、僕らをしかめ面で見ている……ような気がする。

「どこだって?」
「待てよ、続きを受信……よし」

真っ白い画面に、真っ黒い文字がいくつか浮かび上がる。

「緑町、二丁目、列車事故、三人」

わずか十一文字の知らせに僕ら二人は狂喜し、すぐにその場で、ニュース速報サイトへ携帯電話からアクセスした。

「すげえよ、三つ隣の町じゃん」
「落ち着けって、他の県とか市かも知れないだろ」
「なあ、まだニュースになってない?」
「十分くらいはかかると思う。いつもそれくらいだから」

やがてニュース速報サイトの見出しへ、僕らが期待した通りの文字が浮かぶ。

「……おい、やっぱり三つ隣の緑町だよ!」

さっきよりも大きな声で僕らは喜び、乗客の冷たい視線を感じて少しおとなしくなる。

僕らが熱中しているのは、最近仲間内で密かに流行りだしたメールマガジン。『訃報マガジン』といういかにも縁起の悪い名前のメールマガジンだ。

「やっぱりすげぇな、これ」
「本当にどこよりも早いもんな」

マガジンの内容はいつも十文字前後。地名、事故や事件の内容、最後に人数を表す数字。

「絶対どこかのマスコミ関係者だって」
「諜報機関だよ、間違いない」

僕らは、どこかで起きた事故によって何人死者が出たか、それをどこよりも早く知らせるメールマガジンに入れ込んでいるのだ。

「まだ誰も知らないもんな、これ」
「当然だろ」
「ちょっと刺激的過ぎるよな」
「こういう使い方は不謹慎って言うんだよ」

誰かの死の知らせをネタにするなんて、ましてやそれを大喜びして騒ぐなんて、僕らのやっていることはいかにも不道徳なことなのだろう。

しかしそれは、他のどれもがそうであるように、悪いこと特有の快感を備えてもいた。

「信用できるやつ以外には絶対に教えるなよ、このマガジン、いつ発行停止になったっておかしくない内容なんだから」
「わかってるよ。堅いやつには無理だよな、これ」

どこかで起きた惨事を誰よりも早く知る、そのことは言葉にできない優越感を生んだ。ニュース番組がどこよりも早くスクープを欲しがるように、僕らは誰よりも早く、その手の事件を知りたがっていたのだ。きっと誰もが、潜在的に。

「ハマれば早いんだけどなあ」
「ニュース見るのと同じ感覚なんだけどな。口で説明したってわからないから仕方がないよ、これは」

バスの乗客が、僕らをちらちらと見ている。僕らの会話の内容を知ればきっと、彼らは僕らに嫌悪を感じ、そして密かに憧れを抱くに違いない。

「まあわかる連中だけでわかればいいよ」
「そうだな……あれ、また新着だ」

携帯電話がドナドナのメロディを鳴らす。僕はマガジンの続きを受信し、はやる気持ちを抑えて小声でその文面を読み上げる。

「本町、一丁目、バス事故、十二人」

一瞬、僕の隣で友人の顔が青ざめ、次の瞬間、運転手の声が響く。

『次は本町、本町一丁目です。お降りの方はボタンを……』

はっとなって車内を見渡す。僕らに冷ややかな視線を送っていた乗客、運転手、僕ら、全部合わせて、一、二、三……。

Fin.

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