monologue : Same Old Story.

Same Old Story

選ばない意志

いつだって、私は彼の言いなりだった。

「もういいじゃないか、そんなことは」

いつも彼の言葉に渋々ながらうなずき、どれだけ不満が積もろうとも、それを言葉にすることはなかった。私は、自分で結論を選べなかったのだ。

「馬鹿にしないで。いい加減にしてちょうだい」

だから、まさか自分の口からこんな言葉が出てくるとは、夢にも思わなかった。

「私だって何も知らないお人形さんじゃないのよ。あなたがどこで夜を明かすのかくらい、知らないわけがないじゃない」
「……何を言い出すんだよいきなり、君らしくもない」

彼は明らかに動揺していた。

「私らしくない? ええそうね、あなたに言われるがまま、じゃない私なんて」
「何を言うんだ」
「ずっとそうだったのよ。あなたと結婚してから、ずっとそうだった」

私は、選ばないことに慣れていた。選ぶことを恐れていたのだろう。彼が選んでくれた結論なら、どんなものでも幸せにつながると信じていた。

「あなたが浮気していても、いつかは幸せな結末を、あなたが私を選ぶ幸せな結末を」
「…………」
「待ってたのよ、ずっと」

私は待っていた。待っていただけだった。自分で未来を決めないことの容易さに慣れ切って、なすがままでいた。私に、彼を責める権利があるのだろうか?

「あなたが決めてくれた私の未来。あなたと夫婦になって、二人で暮らして、でも子供はまだいらないって」
「もういい」
「でもそれも、全部あなたの都合だったのよね。体裁の良い、子供や家庭に束縛されない、けれど他に女を作って、そっちではきっともっと」
「もういい!」

彼が家中に響くような声で怒鳴りつけ、部屋の外に向かって歩き出した。振り向くことなく、立ち止まってつぶやく。

「まさか君がそんな風に思っていたなんて」

きっと彼は、また私を体良く操るつもりだったのだろう。

「別れよう、って言うんでしょう」

彼は何も応えなかった。

「いつでもあなたの思い通り。その結末だって、いつかのために用意していたんでしょう?」

何も返事はない。

「でもね、思い通りにはいかないのよ」

彼を押しのけるようにして部屋を出て、台所へと駆け込む。驚いたのか、何か悪い予感がしたのか、彼は私の後を慌てて追いかけてきた。彼が台所に着く頃には、私はもう包丁を握り締めていたけれど。

「あなたの思い通りの結末なんてもうたくさん」

包丁は不思議と手に馴染んで、体の一部になったような気さえした。

「……待てよ。なあ、とりあえずそれを置いて、落ち着いて話そう」
「何を話すつもりなのかしら」
「これからのことだ。これからの二人の」
「冗談じゃない」

にじり寄ると彼は情けない顔で後ずさりし、何かを踏みつけてバランスを崩した。

「……なあ、おい」
「情けない顔ね」

私は包丁を思い切り振りかざし、勢いよく自分の胸に突き立てた。

「……!」
「これで……何も、あなたの思い通りには、ならない……わ」

驚きか、恐怖か、両方か、彼は声にならない悲鳴を上げた。

「ざまぁ見なさいよ」

吹き出した血は温かく、薄れていく私の心を、不思議と落ち着けてくれた。

Fin.

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