monologue : Same Old Story.

Same Old Story

失せ物探し

失せ物探しでそれなりに名の知れた占い師がいた。的中率はおよそ六割から七割というから、彼に相談すれば必ず解決する、というわけにはいかないが、どうしようもなく困ったときには頼ってみるか、という、その程度の存在ではあったが。

その占い師に、あるとき一大転機が訪れた。

「ここから西へ二十分車を走らせたところに、古い洋館があるのが見えます。史跡というよりはホテルか何かの跡のようですが」
「そこに、息子は……」
「おそらく怪我でもして動けないか、何かの弾みで気を失っているのでしょう」
「ありがとうございます、早速手配を」

ある実業家の息子が行方不明になり、それを彼が占いによって見事居場所を当てた、と国内のメディアがこぞって報道したものだから、彼のオフィスはそれまでにない賑わいを見せた。

「先生! うちの息子は、うちの息子をどうか」
「こっちが先だ! 五年前に蒸発した嫁を」
「生き別れた姉がいるはずなんです、だからどうか」

尋ね人のある者が彼を頼って押しかけ、オフィス前の通りが軽いパニック状態になるほどだった。必死にすがる訪問者たちに向けて、彼は冷静に言い放った。

「私は本来失せ物探しの占い師です。それも、せいぜい六割七割程度で見つけるのが関の山。申し訳ないですが、皆さんの期待に完全に応えることはできないでしょう」

それでも彼を頼る者は後を絶たなかったし、実際に見つかった者もいればそうでない者もいた。彼は一躍時の人となり、金儲けの方法を占いで見つけた、などと揶揄されたりもした。

しかし流行が過ぎると彼のもとへ占いの依頼はほとんどなくなった。

「先生、このところめっきり暇ですね」
「仕方がないだろう、世間は常に新しい面白いものを探しているし、そうでなければ失せ人がいなくなったのだろう」

占い師は彼の弟子にそう言って聞かせたが、仕事がなければ生活が苦しくなるのもまたどうしようもない事実だった。

その数週間後、彼にまたチャンスが訪れた。知事の息子が何者かに誘拐され、その居場所を知るために知事自ら彼のもとを尋ねたのだった。

「わかりました。占ってみましょう」
「どうか頼む。礼はいくらでもする」

占い師は全身全霊をかけて占い、ある廃屋に知事の息子が監禁されている、との結論を出した。知事はその言葉を聞くが早いか彼のオフィスを飛び出し、専用の高級車で指示された場所へ向かった。

誰もいなくなったオフィスの裏口から、彼の弟子が顔を覗かせた。

「先生、今回もばっちりやっときました」
「まさか傷付けたりはしていないだろうな?」
「もちろんですよ。そんなことしたら犯罪になっちゃうじゃないですか」

そう言って弟子は舌を出す。

「なに、この程度の自作自演劇なんて、ずっと昔から占い界隈じゃ横行していることだ。今さら引っかかる方が間が抜けているのさ」
「先生、それはもう何回も聞きましたよ。そろそろ、知事が息子を見つけたってニュースにでもなってるんじゃないですかね」

二人はテレビの前に座り、新しい訪問客の呼び水となる吉報を待った。

『臨時ニュースです。先日発表された知事の長男誘拐事件について速報が入りましたのでお伝えします』
「お、出ましたよ先生」
「よしよし。これでまた間抜けな客がどっと押し寄せる」
『つい先ほど、知事の長男が無残な遺体となって発見されたとのことです』

二人は一瞬言葉を失い、お互い顔を見合わせ、罵り合った。しかしすぐに冷静さを取り戻し、ニュースの画面を食い入るように見つめた。

『郊外の廃屋に放置された人質は野犬に襲われたものと見られています。無残な遺体の発見者は皮肉にも知事自身であるとのことです。幸いにも現場から走り去る車の目撃者がおり、警察当局は卑劣な犯人を絶対に検挙すると……』

また二人は罵り合い、今度はすぐにはおさまらなかった。占い師は逃亡経路を占ったが、彼の本分でないためか良い結果は出なかったようで、彼は二週間後に逮捕された。

Fin.

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