monologue : Same Old Story.

Same Old Story

報い

「全くひどい世の中だ」

廃材を組み上げたような、申し訳程度の日除けの下で、バスを待ちながらくだをまく中年の男。何も言わずじっとバス停の看板を見つめ、何とか中年男の無駄口をやり過ごそうとする少年。二人の他に、廃材の下でバスを待つ者はいなかった。

「ニュースは見るかね? 全国版で十分、昨日と先週末のやつなんだが」
「さあ、見たかな。見てないかも知れない」
「若い者が世の中に興味を持たなくてどうする。そんなことだからあんなことが」

中年男は必要以上に熱を帯びて、数日前に起こった事件について語り出した。

「そう、ちょうど君らくらいの年齢の子だ。成人もしないくらいの若者が、あんな悲惨な事件を起こすなんて私らの世代じゃ考えられなかった」
「へえ」
「何歳だったかな……そう、十七だ。それが二人も三人も殺して捕まった」
「へえ」

努めて気のない返事を返しても、中年男はそれに気付かないか、あるいはお構いなしに話すつもりらしかった。少年は少しうんざりした表情をしてみせたが、それが何になることもないだろうと考え直したか、黙って看板を見つめて男の声を聞いた。

「だいたい、おかしいじゃないかこんなことは」

何度か似たような文句で少年犯罪について語った後、中年男はこう切り出した。

「私も若い世代も同じ人間だ。同じ生き物だ。それが、ここまで理解できないような行動に出るというのはどうもおかしい。しかも同じ国で育ったというのに」
「…………」
「若い世代が全員、精神を病んでいるわけでもないだろう。おかしいじゃないか」
「…………」

少年は看板を見つめたまま、何も答えない。

「もしかしたら、君たちより少し上の世代から何か間違っていたのかも、いや、もっとずっと前からかも知れない。少しずつ間違いを重ねて、君たちの世代でこんなことになってしまったのかも知れない」
「…………」
「君たちをうまく育てられなかった、私やもう少し上か下の世代の責任かも知れない」
「…………」
「文学をたしなみ体を動かし、たくさん食べてたくさん寝る。そんなこともさせなかったかも知れない。経験に基づかない理論で、君たちを優秀に育て上げようとしたのかも知れない」

中年男が、看板を見つめたままの少年に向き直る。

「すまなかった」

頭を深々と下げた彼の言葉は、少しだけアルコールの匂いがした。少年は、少しだけ顔をしかめた。

「君たちをそんな風に育ててしまってすまなかった。社会をここまで歪めてしまってすまなかった。正しい手本を見せてやれなくてすまなかった」

酒で吐くのは目に見えるものだけではない。彼は、頭を下げたまま言葉を吐き続けた。

「真っ当に育ててやれなくてすまなかった。真っ当に育ててやれなくてすまなかった。真っ当に育ててやれなくてすまなかった」
「じゃあ、あんたは」

頭を下げる中年男を見下ろしながら、少年が口を開く。

「俺が人殺しに快楽を覚えても、文句は言わないだろうな」

そう言い終わるのと同時に、腰に挿してあった拳銃を取り出し、下げられたままの頭に照準を合わせ、彼がそれに気付くより先に二発、撃ち抜いた。

「ほら、何とかいう文豪の作品にあったろう。さびれた都でどうのこうの、ええと……」

物事を思い出すときの仕草を誰へともなく演じてみせてから、吐き捨てるようにつぶやく。

「まあいいか、そんなことは」

拳銃を腰に挿し、いつまで経っても来ないバスに見切りをつけて、少年は道を歩き始めた。

Fin.

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