monologue : Same Old Story.

Same Old Story

あなただけを

「そんなことあるわけないでしょ」
「本当だって、確かに見たんだから」

僕の隣を並んで歩く彼女が、舌を出して眉をつりあげる。

「どうせまた、私をからかおうって魂胆なんでしょ」
「確かに、すぐには信じられないかも知れないけど」
「当然よ。同じクラスの、しかも私の親友のことをロボットなんじゃないか、なんて。冗談にしても笑えないわよ」
「そんなくだらない冗談、言うはずがないだろ」
「じゃ何なのよ」

強く問い詰められて黙り込む。夢や見間違いじゃなかったとは言い切れない。

昨日の放課後、教室に一人残ったクラスメートの、想像もしなかった姿を目にした。僕が忘れ物を取りに教室へ入ると、そこにいた女の子は、自分の右腕を左手に持っていたのだ。肘の付け根から切り離された腕は、規則的に同じ動きを繰り返していた。驚いて声もあげられずその場から逃げたけれど、今日会ったその子の右腕は、確かにいつもの通り肘から先があった。

もし僕の見たものが現実だったなら、着脱可能な腕を持つ彼女は、サイボーグか、アンドロイドか。そんなことを口にした途端、今隣を歩いている彼女から強烈な批判を浴びてしまった。

「私と彼女は幼稚園から一緒なのよ。ロボットだとかサイボーグだったらすぐに気付いてるわよ」
「じゃ、最近すり替わったとか。本物の彼女はどこか別のところにいて、今学校にいる彼女は代理の」
「何の意味があるの? 病気だとか、学校に来れない事情があるなら私にくらい言うはずだわ」
「彼女本人の意思じゃない、ってのは? 誰かに無理やり交代させられた」
「呆れるわね」

大きくため息をついて、彼女が僕の前に仁王立ちになる。

「ロボット工学の原則、言ってごらんなさい」
「えっと……」
「工学の講義で習ったでしょ。次のテストにもきっと出るわよ」
「人間を傷つけない、人間に逆らわない、自分自身を傷つけない」
「だいたい当たり」

もう一度、大きなため息。

「彼女が彼女自身の本意なしにロボットにすり替わられることが、どれにも抵触しないとは思えないわ。それに六年前に法案化もされて、原則に沿わないロボットを製造した人には罰則が与えられることになったでしょう」
「ええと、まあ」
「だとしたら彼女が無理やり取って代わられることなんてほとんどあり得ないし、もし自分からそうするなら私にまず言うはずだわ」
「…………」
「十年来の付き合いなんだから、言わなくてもわかるけどね」

確かに六年前のロボット製造法改正以後、製造業者には実質、国からの認定を受ける義務がある。それを潜り抜けて製造用の機材を入手することは難しい。

「結論。彼女はロボットじゃありません。腕が外れたのは見間違い」
「…………」
「疲れてるんじゃない? 何か悩んでることでもあるの?」
「いや、特にそういうことはないけど」

もしあの子が本当にロボットだとしたら、余程大きな規模での組織的な犯行か何か、ということになるだろう。あるいは、国が何か秘密裏に動かしてるプロジェクトだとか。

「こういうのは? 国が密かにロボットを製造して、ひとつの学校、街、市をロボットにそっくり入れ替える、っていうの」
「まるで安物の SF ね」

心配するだけ無駄だった、と言わんばかりに、さっきよりも大きなため息をつく。

「じゃ、国がそんなことをする理由を教えてもらえるかしら」
「決まってるだろ、ロボットだけで社会形成が可能か実験するとか、そこにある種の人間を隔離するとか、あとは……人間はもう希少種になってて、ロボットによって飼育されてるとか」
「あら、それは凄いわね。じゃ、私もあなたもロボットなのかしら」
「さあ……僕は人間だろうね。けれど君や、あの子を含めた他のクラスメートは、もしかしたら最初からロボットだったのかも」

一瞬、彼女の口元が引きつったのが見えた。

「やっぱり疲れてるか、何かトラブルがあるんじゃないの?」
「どうして?」
「そんな妄想じみたこと、真剣な表情で言うからよ」
「そうかな。面白い発想だと思ったんだけど」
「悩み事があるんだったら言ってね、相談にのるから」

彼女の真剣な目が僕を見つめる。

「あなたのことはいつも気にしてるんだから。一人で考え込んだりしないで」
「……? 君の方こそ、今日は変だよ」
「そんなことないわ、いつも通りよ。あなたのことは本当にいつも気にしてるのよ、困ったことがあったら隠さずに言ってね。あなたがストレスで体調を崩したりしたら、私どうなるか」
「……うん、ありがとう」

そう言っても彼女はまだ、熱を上げたようにしゃべり続けていた。どことなく彼女の様子に違和感を覚えたけれど、その姿は間違いなく、僕が毎日見ている彼女の姿のはずだった。

Fin.

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