monologue : Same Old Story.

Same Old Story

目覚めれば一人

目覚まし時計の電子音が鳴り、まだ醒めきらない頭と同じようにゆっくりした動きで、右手がそれを止める。

「……またか」

昨日居酒屋でひっかけた女は、どこにも見当たらなかった。

「これで半年か、最初に消えてから」

彼はここ半年、本当の意味で安らいだことなどなかった。

ちょうど半年前、数年間付き合っていた恋人が消えた。失踪という言葉より、消えたという表現の方が似つかわしい。二人でホテルに泊まった翌朝、忽然と姿が消え、ホテルの従業員や監視カメラでさえ、彼女の姿を見てはいなかった。

「……俺が何をしたというんだ」

恋人が消えてからの落胆ぶりは酷く、ろくに人付き合いもしないまま三ヶ月が過ぎた。

しかしそんな彼に想いを寄せる女性が現れ、彼の心の隙間を埋めるように寄り添い、彼もそれに応じるようになった。二人は休日に映画を観て、夕食を一緒に食べ、彼の家で一晩を明かした。

翌朝、彼女は消えた。

「何かの悪い冗談か、夢なら早いとこ覚めてくれ」

あまりのことに彼の頭はパンク寸前で、酒場で無理に酒を飲み、心配症の女を惹き付ける魅力でもあるのか、家まで送り届けてもらいそのまま一緒に、ということも少なくなかった。その度彼は一人の朝を迎えた。

「夢なら……」

そのとき、ふと洗面所から人の気配がした。泥棒かと身構えて様子を見に行くと、そこには一人の女性がいた。

「お前……!」
「おはよう、今日は早いね」

半年前に突然消えた恋人が、今起きたかのように顔を洗っている。言葉にならない喜びようで彼は抱きついたが、彼女は困惑するだけのようだった。

落ち着いてから話を聞くと、どうやら彼女は失踪したつもりは全くなく、それどころかまるで今日が失踪した夜の翌朝であるように認識していた。

彼は事実を伝えようか迷ったが、まるで未来へのタイムスリップを起こした彼女がまたいなくなるような気がして、説明することをやめた。

「とにかく良かった。もう突然いなくなったりしないでくれよ」
「何言ってるのよ、ずっとここにいたじゃないの」

彼は苦笑いのまま納得した振りをした。

二人は一緒に暮らし始め、二ヶ月後に夫婦になった。もともと二人はそのつもりで話を進めていたから、特にこれといった問題はなく結婚式も終えた。

「まさか、諦めてた結婚ができるなんて思わなかったよ」
「諦める? ずっとそのつもりで話し合いしてたじゃないの」
「いや……何でもない、忘れてくれ」

二人は平穏な毎日を過ごした。彼は、また彼女が消えるのでは、と疑心暗鬼にもなったが、どうやら心配は無用のようだった。

「いつも寝るとき、私のこと監視するみたいに見てる」
「何でもないよ、思い過ごしみたいだ」

ごまかしながら寝室を離れ、洗面所へ向かう。そこには、見覚えのある女がいた。

「寝れないの? 私も、目が覚めちゃって」

恋人がいなくなった自分を慰め、一晩で消えていなくなった彼女。

「……なんてこった」

理屈は理解できないが、どうやら自分と寝た女は一度消えて、きっかり半年後にまた現れるらしい。妻にはこのことをどう説明すれば? 今現れた彼女には? 俺は、酒と失意に任せて何人連れ込んだっけ?

全てはどうしようもないことに思われ、あれほど現れて欲しいと願った目の前の彼女は、どうやらもう消えてはくれないようだった。

Fin.

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