monologue : Same Old Story.

Same Old Story

適正審査

「次の方、どうぞ」

番号表を握り締め、面接官のいる審査室のドアを開ける。

「失礼します」
「そこへかけて」

言われるまま椅子に座る僕のぎこちない動きが滑稽だったのか、面接官が笑顔を見せる。

「そんなに固くならなくても構わんよ、企業の面接なんかじゃないんだから」
「あ、はい」
「もうそういう時代じゃないんだ」

そう言って面接官は、僕の今までの試験結果に目をやった。

職業の自由、なんて時代が終わってもう十五年になるだろうか。この国では個人が仕事を選ぶ制度は廃止された。公的機関が就業を希望する人の適正を検査した後、最も資質の活かせる職種へ配属する、というシステムへ移行したためだ。

「……なるほど」

面接官が頷く。

与えられる職業はさまざまだ。教師、調理師、パイロット、エンジニア……着付けや絵画が適正だと判断されることだってある。

「ふむ」

導入当初は問題とされもしたが、最終的には誰もが了承した。敷かれたレールとはいえ、生涯路頭に迷うこともなければ、次に何をするべきか迷うこともない。それは、安定という名の幸福なのだ。

与えられた職業を拒否することもできるが、それをする人はほとんどいない。

「なるほど、わかった」

面接官が頷く。僕の天職が何か、審査が終わったようだ。

「君はなかなかに頭も切れるし、自主性も野心も基準値より高い」
「ありがとうございます」
「君にうってつけの仕事がある」

面接官が手元のファイルから一枚のパンフレットを取り出し、僕に差し出した。

「どうだろう」

それの表紙には、大きく "犯罪者の手引き" と書かれていた。

「君は賢いし機転がきく。いざというときにも活路を見い出せる。それに、豊かな生活に対する欲求も強い。どうだ、警察官と二人三脚のイタチごっこで食べていかないかね」

敷かれたレールは、社会のための設計図をなぞっている。必要とされない職業はないのだ、犯罪者だって警察官のために必要だ。

僕に、断る理由はなかった。

Fin.

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