monologue : Same Old Story.

Same Old Story

眠りの底

いつまでも眠り続けてしまいそうな、何事も起こり得ない山間の小さな村の小さな家で、僕は毎朝目を覚ます。

「……朝、か」

僕の同世代の連中、といってもたった八人だけれど、彼らは皆都会へ出て行ってしまった。誰一人帰らず、ほとんど連絡もない。僕は何となくこの生まれ故郷に居残り、何となく日々をやり過ごしている。何の事件もない日々を、消化している。

「若いうちはもう少し冒険なさいな、お前が残ってくれるのは嬉しいけれど」

母はいつもそう言い、次には必ず嫁をもらうのはどうかと尋ねる。そんな相手、一山向こうにしかいないことも知りながら。

「いいんだよ、今は。退屈でも仕方がない」

とは言うけれど、内心うんざりしてもいた。自分の時間が無為に削られるだけのような、そんな。恨みがましく思うこともなくはなかった。自分にも、何か機会があれば。

「それならいいんだけど」

あるいは、母という枷がなければ……それがきっかけでもいい。僕にもチャンスがあれば……。

そこで、また目が覚める。

「お疲れさま、時間ですよ」
「……ああ」

スーツに少しだけ皺がついたことを気にしながら、仰々しい装置からはい出る。

「今回の仮想体験はいかがでしたか? ご希望通りの夢は」
「ああ、見れたよ。都会を密かに夢見る田舎の若者、だった」
「毎度ごひいきにありがとうございます。次回もきっと当店で!」

もうすっかり市民権を得た仮想体験装置、つまりは夢を見る機械の力を借りて、僕はようやく日々を乗り切っている。

「お帰りはこちらです」

案内係が扉を開く。雑踏と排気ガスの臭いが僕を迎える。都心の情緒なんて年中不変、うんざりだ。

「また来るよ、同じ夢を予約しといてくれ」

人混みに身を投じ、吐き気をこらえながら歩く。あんな田舎で退屈に暮らせたら、こんな混乱しきった都会の生活なんて、今すぐ投げ捨ててやるのに。堅苦しいスーツに首を締められる思いを抱えながら、意識だけ眠るようにぼんやりと、目的地へ向かい歩く。

そこで、目が覚める。

「どうでした?」
「すごいな、これ」

ようやく僕の地元にもお目見えした、最新鋭の仮想体験装置。

「複雑な状況だって再現可能なんだね、今、夢の中で夢を見たよ」

ああ、こんな装置に日常的に触れられたら。何でもある都会に比べて、この町はあまりに貧相で、恐らく僕が次にこの装置に触れるには、予約を待ち続けて一ヶ月、というところだろう。娯楽もなく供給もない、こんな片田舎では。毎日が眠っているのか覚めているのか、そんな退屈な町。

やがて、目を覚ます。

「お疲れさまでした、いかがです?」
「……うん、まあまあだったかな」
「それにしても複雑で入り組んだ夢を希望されるんですね。夢か現実か、区別がつかなくなりそうな」
「いいんだよ、それで。こうでもしないと、とても。夢にしろ現実にしろ、何十年も続けるのは辛すぎる、だなんて、君はそう考えたことはないのかい?」

Fin.

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