Same Old Story
品種改良の愛
- Better Bitter
- http://www.junkwork.net/stories/same/201
「どうしようもない」
「え?」
「うんざりだ、って言ったんだよ。もうこんなこと、やめだ。何も意味がない。もっと有意義なことに時間を使うべきだった」
「……ちょっと、待ってよ。そんな、いきなりじゃない」
強い口調で終わりを切り出す男に、女は狼狽の色を隠せなかった。
「まだ話し合う余地はたくさんあるわ」
「話し合う? 僕からの要求を君が呑み続けることが、僕らの話し合いだったのか?」
「そんな、ひどい」
男は続ける。
「どんな冷たい言い方をしたって、君は僕から離れないだろう、絶対に。君はそういう女なんだ」
「そんな」
「だから僕の言うことは何でも聞く。喧嘩の翌日には折れて謝るし、僕の気に入らない服はすぐに捨てる」
事実その通りだった。女は男の要求であればすぐに応え、趣味も嗜好も癖も、何もかも男の望むままに修正してきた。
「こんな、障害のないゲームの何が面白いってんだ。全部僕の思い通り、望む通り。くだらないよ」
「……そんな、お願いだからひどいことを言わないで」
「次の台詞は、どうすればいいの、だろう? 僕の要求を待ってる」
男が、女に顔を寄せる。
「ルール違反だけど、これっきりだから言ってやる。君は普通の女じゃないんだ。ロボットかバーチャルリアリティか知らないが、現実不在の女なんだ。僕があるところへ金を払って、君との疑似恋愛を申し込んだ。コースは "応じる女" さ。何でも僕の言うことを聞く。まさかこんなに退屈でくだらないものだとは、想像がつかなかったけどね」
女は何も言わない。男は、小さなため息をひとつつく。
「悲しい? そうでもない? どっちでもいいさ、君を返品したらリセットされて、全部綺麗に忘れさせてもらえる。さよならだ」
男が、ぱちん、と指を鳴らす。
「……こんなものかしら、ね」
鳴らした指をぴくりとも動かさず、まばたきも忘れた男に女が語りかける。
「"押しつける男" はなかなかやりがいのあるコースだったけど、ただ応じるだけってのもあまり面白味がないものだわ」
女が、ぱちん、と指を鳴らす。糸の切れた人形のように、男が崩れ落ちる。
Fin.