monologue : Same Old Story.

Same Old Story

戦略的ジレンマ

「最近変わったよね」

紅茶をすすりながら、脈絡もなく彼女が言葉を投げつける。コミュニケーションとかキャッチボールと言うには少し強すぎる、昼間の喫茶店には似つかわしくない、火種にだってなりかねない芯の強さで。

「最近? いつから? 一週間くらい?」
「もうちょっと」
「一ヶ月くらい?」
「私たちが付き合い始めてから」

三ヶ月。そりゃ、誰だって。

「そりゃ、誰だって変わるよ。三ヶ月もあれば、それに、恋人ができたわけだしさ」
「ふーん。そんなもんかなあ」

カップを置いて窓の外へ投げる視線は、不満のやり場を探しているみたいだった。相手が僕だけでは物足りないのか、なんて。

「……どう変わった?」
「どうって、いろいろよ」
「どこが変わったのが気に入らないの?」
「別に、気に入らないわけじゃ……」

僕に視線を戻し、腹をくくったようにため息をつく。

「もっと、堂々としてて、しっかりしてた」
「……僕が?」
「他に誰がいるっていうのよ」

思わず苦笑いする。

「三ヶ月前はもっと男らしかった、って?」
「そうよ。自信のある男、って感じ」
「今は女々しくてため息が出る、か」
「そこまでは……」

やがて言葉に詰まる。当たらずとも遠からず、か。

「今思いついたわけでもなさそうだね。しばらく、少なくとも何日か、言うか言うまいかで悩んでた?」

返事はない。やれやれ、と心の中で、今度は僕がため息をつく。

「実を言うと」

今度は、彼女に聞こえないくらいの、小さな本当のため息。

「君がそういう、自信家を好きなんだって知ってた。どうしても君と親しくなりたくて、ずっとそういう男の振りをしてたんだよ。ずっと、そう、一年くらいになるかな? 君も知ってる、僕と出会ったときからだ。今は、気が緩んで化けの皮がはがれたんだろうな。本当の、僕だ」

彼女は何も言わない。

「がっかりした? 騙されたと思う? こんな僕だったら、付き合う価値もないって思う?」
「…………」
「今すぐドアを出て行って、携帯のメモリも消してやろう、って思ってる?」
「……私は」

それだけ言うと、彼女はしばらく黙り込んだ。瞳の中には、迷いのような色が映る。

「……私は……」

また、沈黙。

「正直者は嫌いじゃない、って?」

はっとしたように僕を見つめて、彼女は吹き出した。

「わかんないわ、今すぐには。もうしばらく付き合ってあげる」

もうほとんど残っていないカップを持ち上げ、紅茶で乾杯のポーズを示す。

「ところで」

笑顔をやめて、また真剣な眼差しの彼女が問いかける。

「その正直さも "振り" ? 本当のあなたはどういう人なのかしら」

それだけ言うと彼女は、おかしくてたまらないことのように笑った。紅茶で乾杯のポーズ。

Fin.

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