monologue : Same Old Story.

Same Old Story

二十

「ねえ見てこれ、彼氏が送ってきた写真」

隣席の若い女の子たちが、ひとつの携帯電話を取り合うように覗き込んでいる。口から漏れるのはどこか芝居がかったような、ありふれた感嘆詞ばかり。

「便利になったものですね、世の中」

僕は向かいの席の、中年男に語りかける。騒がしいファストフード店の中といっても、僕の声が届かない距離ではない。

「聞こえていますね?」

彼が震えるのがみてとれた。

「…………」
「二十年も前には、こんなことになるとは思いもよらなかったでしょうね。こんな複雑な端末を、個人がありふれたものとして持ち歩くなんて」
「……くれ」
「といっても僕はまだ幼かったから、当時と今の違いなんて大して意識できませんが」
「……許してくれ」

震える声が絞り出すように言葉を並べる。

「許してくれ」
「何を、です?」

彼をじっと見据える。落とした視線は僕に向かない。

「……裏切りの代償なら、何でも支払う。頼むから見逃してくれ」
「取り引きがしたい、ということですか?」
「頼む」

やれやれ、とため息をつく。煙草を探してポケットを探り、禁煙席だったことを思い出して手を止める。

「わざわざこんなファストフード店を選んだのは、暗殺されるリスクを避けて対面での取り引きをしたい、ということでしょう」
「……そうだ」

彼の額を汗がつたう。

「まあ、ゆっくりと話しましょう。あなたがボスだった二十年前とは、何かと事情が違います」

ポケットから煙草の代わりに携帯電話を取り出す。彼は一瞬、何かを持ち出したことにおびえの色を見せたが、すぐにまた視線を落とし、じっと黙り込んだ。

「いいでしょう、これ。もう見かけないんですよ、最近の新しい機種はすぐに売り切れちゃうから。ちょっと失礼」

それを机の上に置き、席を立つ。彼はじっと動かない。僕はトイレへ向かい、すぐ隣のドアに滑り込み、従業員用通路から店の外へ出た。

「最近の新しいやつはよくできてる。こんな複雑な端末、子供が持つものじゃない」

ジャケットの袖をまくり、時計を見る。

「僕はもっとシンプルな、単純明快なやつの方が好きだけど……あなたがボスだった二十年前とは、違う。僕らは物事が明るみに出るのを恐れないし、どんな犠牲も厭わない」

時計の針が動いた瞬間、店内から小さな破裂音が響いた。半径五十センチメートル程度に被害を及ぼす、指向性の小型爆弾。外観は携帯電話そっくりの。

「これくらいシンプルな方が好みだ」

隣の席にいた女の子たちは無事で済んだだろうか? そうだといいが、知ったことじゃない。僕は店を背に歩き出した。

Fin.

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