monologue : Same Old Story.

Same Old Story

紅茶の中

「あ」

温かい紅茶のカップにゆっくりと沈んだ角砂糖は、私のスプーンが触れるか触れないかの瞬間に、音もなく崩れてしまった。向かいの席に座った彼が、何事かと顔をあげて私を見るが、私が説明する前に、たいしたことではないと察してまた視線を落とした。植え込みの向こうで店員も私の方を見ていたような気がするが、もうそこに姿はない。静かな喫茶店には静かな音楽が流れ続け、まるでここでは無関心が優しさのような、そんな気さえした。

「ごめん、何でもない」

彼はもう気にしてなどいない。手元の雑誌に並んでいる、インタビュアーの言葉を追うのに必死でいる。

「ねえ、何の記事?」
「解散のことでさ」

手元の雑誌には、有名なミュージシャンのバストアップが載っている。いつもは五人か六人組だけれど、今は一人。

「方向性の違いだってさ」
「ありがちね」

私の無神経な言葉に、彼が初めて私を見る。私は手にしたままのスプーンで、角砂糖の残りを細かく崩した。こんな角砂糖ですら思ったようにならない、なんてくだらないことを考えて、あまりに惨めったらしい考えに苦笑いする。

「同意の上でお別れしたのに、わざわざ紙面割いて長々と話さなきゃいけないことかしら」
「ファンが知りたいと思ってるから、だろ」
「そうかしら。本当は、期待に添えないことの言い訳なんじゃないかしら。離婚して実家に戻った女が親戚に言い訳して回るみたいな、そんな風に見える」
「君にはわからないよ」

彼はまた視線を落とす。もう、どんな罵倒も無駄になるような気がした。

「ねえ」
「何」

少し苛立った声が、間を置かずに返ってくる。私は言葉を探す。今度は私が説明する前から、何か改まったことだと察して、彼は私をじっと見た。

同意の上で始めて、同意の上で終わる。そんな関係ばかりを積み重ねることなんて、きっと誰にもできない。けれどだからこそ、私は、そうあるように努力しなければいけない。

「聞いて。今ここで、同意が必要なの。二人とも納得しなきゃいけない」
「……何の?」

私は、せめて自分だけでも納得させられるように努力しないといけない。思い通りにならないことは多いけれど、うまくやっていかなければいけない。

「奥さんに、私たちのことを説明して。それか、彼女が親戚のインタビューに答えるのが嫌なら、今すぐ店を出て、もう私とは会わないで」

もう溶けて見えない角砂糖のことを考える。触れる前に崩れてしまうような、不確かなものに何かを期待するのは、もうやめにしなければいけない。

長い長い沈黙の後、彼はため息をついて雑誌を机に置き、静かに席を立った。私は、彼が視界から消えるのを、足場を踏み締めるような確かな気持ちで見送った。

Fin.

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