monologue : Same Old Story.

Same Old Story

命を懸けて

「要するにだ、食べるということは」

それまでの何だかわからない主張をまとめるべく語気を強め、身を乗り出すように僕へ顔を近づけると、彼は鼻息荒くそう言った。

「食べるということは、生きるということだ。つまり、生きるということは食べるということだ」
「……よくわからない、君の言うことは」
「何も難しい話じゃない。例えば、お前昨日の夕飯には何を食べた?」
「確か、魚を焼いたやつとサラダをボウルの半分」
「そういうことだ」

わかったようなわからないような主張は、僕を困惑顔にさせるばかりだった。

「……やっぱりよくわからない」
「簡単なことじゃないか」

自分を指差し僕を指差し、空中に何かジェスチャーを示し、彼が続ける。

「夕飯に魚を食う。魚の命をもらって、今日生きているというわけだ、お前は。ボウルに半分のサラダ、ドレッシングに和えられた野菜の命をもらって、今日も明日もやっていくってことだろう。簡単なことじゃないか」
「うん、まあ、君の言うことのひとつひとつはそれなりにわからなくもない」
「だったら何がわからないんだ」

彼の言うことは、少し前に何かの本で読んだ思想家の言うことに似ているような気がする。その思想家はベジタリアンだったような気もするが。

「それがどうして、こんなことになるんだ」

後手に縛られた僕の両手へ目をやって、彼の真意を質す。僕は突然我が家にやってきた、この見知らぬ男に縛り上げられていた。

「わからんかな、俺はお前を食おうと思ってるんだよ。魚や野菜を食っても生きてはいけるが、より上質な命であればより上質な生活ができるんじゃないかと思ってな」
「……わからないな、やっぱり君の頭が、ちょっとイカレてるとしか」

鋭い眼光で僕を睨みつける。

「まあ、お前には俺の言うことはわからんだろうな。野菜しか食べない人間に、ステーキの美味さがわからないように」

そう言って彼は僕に背中を見せた。荷物鞄の中から何か、例えば僕を食べるために使う解体用の機材か何か……を取り出すつもりらしい。僕を縛り上げて安心しきっているのか、隙だらけのその背中へ、全力で体当たりをかます。

「……!」

彼は前方へ倒れ込み、頭をしたたか打ち付けて、どうやら気絶したようだった。手に食い込んだ縄の跡をさすりながら、意識をなくした彼に向かって吐き捨てる。

「君が一番に聞きたいことは何だろう、どうやって僕が縄抜けしたかってことかな?」

彼の鞄の中を覗き込む。

「まあそんなことはどうだっていいことでね。ちょっとだけ興味が湧いたんだよ、君の言う、その……何だろう、カニバリズムみたいなことにさ。例えば僕が君を食べたら、僕は君の命を使ってより良く生きられると思う?」

彼は答えない。

「弱肉強食って言葉、まさか君が納得しないわけはないと思うけどね」

僕は彼の鞄の中から、よく磨かれた一振りのナイフを取り出した。

Fin.

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