monologue : Same Old Story.

Same Old Story

いつもあなたのこと

本当に薄気味が悪い。郵便受けに差し込まれた宛名も差出人もない薄い茶封筒を見て、私はやり場のない溜息をつく。中身は大体予測がついている。どうやら、ストーカーのような何かに目をつけられたらしい。ような、というのは、それが執拗な愛情表現であったり異常な独占欲を示さず、淡々と私の日常にコメントを述べるようなもの、だからだ。

しかしその薄気味の悪さは耐え難いものに違いなく、私は届けられた数十通の封筒を手に、警察署を訪れた。

「あー、若い女性の一人暮らしね。で、お困りのことは」
「その、個人情報というか、プライバシーというか」
「何か被害に?」
「まだ具体的に、っていうのはないんですけど。あの、これ」

私は警察官に封筒を差し出す。中身に素早く目を通す、初老の警察官。

「なるほど、どこかで監視でもしてるのかと」
「そうなんです、気味が悪くて」
「こういう物をよこすようなのに、心当たりなんかは?」
「いえ、何にもありません」

警察官はしばらく封筒の中身を見つめ、じっと考えごとをしていたかと思うと、ふと思いついたように次の質問を投げかける。

「あなた、その、ブログとかそういうものは?」
「ブログ、ですか?」
「日記とかそういうものをインターネットとかで」
「ああ、ええ、一応というか、あるにはありますけど」

今時さして珍しいものでもない、インターネット上での日記、公開、交流。珍しいものでもない、というよりは、まったく手をつけたことのない人の方が珍しいのではないだろうか。私の周りでは、そんな人は思い当たらない。

「あー、そう、そうね。あなたくらいの年代だとね」

思い当たらない、と考えたことを見透かされたような気がして一瞬息を呑む。

「あの、それが何か?」
「何かというか言いにくいことなんだけどね。これくらいのケースであなたがそういう立場だと、我々としては何もできないというのが現実的なところでね」
「……立場?」
「あなたが自分のことを自分から公開して、それを交流の手段としている面がある。あなたに届けられたこの封筒は、あなたのブログに付けられるコメントと大差ないってこと」

けれどそんな交流は、現実の世界で何かを望んでいたわけではない。私がそう考えたことも、彼は見透かしていたようだった。それとも、私のような相談を持ち掛ける人はざらにいるということだろうか。

「ある場所で自分から公開している以上、他の場所でそれが流用されていることを咎めるのは難しいよ」
「……そうですか」

役所仕事、というわけではないが、どうとも力になってくれなさそうなこの男性に、私は半ば失望を覚えていた。だとしたらこんな場所にいても意味がない、早々に帰宅して対策でも考えようかと席を立つ私に、再度彼が声をかける。

「ん、やっぱり……うーん。あの、あなた、猫を飼ってます?」
「……どうしてそれを」
「プロフィール写真みたいな、そういうやつに見覚えがね。ああそうそう、あの三毛猫の脱毛症ね、皮膚病じゃないんじゃないかな。今は割とヘルシーな食べ物が多いようだけど、もうちょっと肉類を増やしても大丈夫だと思いますよ。あまり制限するとストレスにもなるし、自然な食事環境の方が免疫も強くなる」

さらりと彼が述べるのは、私がここ一ヶ月程度の間に日記に書いたこと、のようだった。そういう交流を求めて日記なんてものを公開したのだったら、今の状況こそ私が望んでいたものなのだろうか。現実もその上に構成された小さな非現実も、地続きのものであることには違いない。

「……ありがとうございます」

ただ私には他に何も言えず、苦笑いを返すしかなった。

Fin.

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