monologue : Same Old Story.

Same Old Story

旅の道連れ

運があるとかないとかそういうことで言えば、全く、ない。言ってしまえば絵になるほど、今の僕、というよりは今この瞬間までの僕というものは、全くもってついていない。

「……参ったなあ、どうしようか」

少し田舎の山道、昔の人たちが密かに越境するため山を越えたような、そんなことを空想する。緑が食傷を引き起こすような密度で茂った森、一面に隙間なく他の色を見せないほどに肌を埋め尽くした山々。ほんのわずかに灰色と白のラインが引かれ、かろうじて車道が続いているのだということを確認できる。

「よりにもよって、こんなところでな」

茂る森を抱える山々を、心細く一本だけ敷かれた道路。その細い道筋を、付き合いの長い愛車で走る僕。助手席には女性。

「絵になるやら、ならないやら」

見知らぬ、もう動かない女性。

「参ったなあ」

自動車で人気の少ない山道を走っていたら、細い道の中央線の上に、何か荷物のようなものが落ちていることに気がついた。減速して近付くとそれは、どうやらうずくまった人らしいことがわかった。僕は停車してクラクションを鳴らすが、その人は何も反応しない。恐る恐る車を降りて近付き、肩を二三度叩くと、安心する温度というか温かさというか、そういったものと全く無縁な状態だということが瞬時にわかってしまった。

「……参ったなあ。せめて何とか言ってくれたら」

まるで石膏を人型に固めたようなそれに驚き腰を抜かすと、ずうっと向こうの車道に車の影が見えることに気がついた。対向車線を、車がこっちに向かってやってくる。正確な距離はわからないが、数分としないうちにここへ辿り着くだろう。こんな人気の少ない山道で、車道の真ん中で立ち往生していたら事故を起こしかねない。半ばパニックを起こしながら頭を回す。どうにかして道を空けるか、向こうのドライバーに知らせなければいけない。

どちらにしてもその遺体……女性を道の上に転がしてはおけないので、助手席に担ぎ入れることにした。あまりに重心が安定しなくて、ふらつきながら何とか車に収まったその瞬間、対向車は減速もせずに僕の目の前を通り過ぎてしまった。別段呼び止める必要はなかったのだけれど、あまり見られたくないところだけ見られて立ち去られてしまったような気がして、僕は余計にパニックを起こした。

「全部、間違えたんじゃないか。選択肢が全部間違いだったから、こんなことになったんじゃ」

その対向車が見えなくなる前に、どうにか平静を装って発車しなければいけない、そんなことが頭をよぎり、そのようにした。走りだしてみたら今度は、停車するきっかけなんてものがなくなってしまったことにも気がついた。

それで今、僕は、見ず知らずの女性の遺体を助手席に乗せて、人気の少ない山道を車で走っている。彼女を担ぎ入れるときに色々と気付いたが、どうも転落事故とかそういったものではないように思われた。手首には縄で縛ったような痕が残っているし、口元にはもしかしてガムテープでも貼られていたかのように、何か糊状のものがわずかにこびりついている。事故でなくて、殺人または遺体遺棄の、証拠品を乗せてしまった。

「……参ったなあ。君は誰なんだろうね。何だってこんなところに放り出されてたんだろう。事件の被害者かな……僕は被疑者になってしまうかな」

妙に現実感が湧かなくて、対話のように独り言を続ける。

「こんな、僕みたいなやつじゃなくて、しっかりした人が君を見つけてくれたら良かったのに。君や、残されてるかも知れない君の家族に、僕は何一つしてやれないよ」

彼女を乗せた助手席の足元に目をやる。七輪、練炭、ガムテープ。

「死に場所を探す男に死んでしまった女か」

どうしてこんなことになってしまったのか。

「君、このまま僕が死んだら迷惑かな。無理心中みたいになっちまうね」

力なく笑う。今この瞬間までの僕、あまりについてなかった僕は、結末さえこんなものだろうか。

Fin.

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