monologue : Same Old Story.

Same Old Story

夢のなかのこと

「夢は夢なんだけど、妙に現実的だったような気がするよ」

早朝に目を覚ます。ついさっきまでまどろんで観ていた夢に、僕は目が覚めてからも囚われていた。僕につられて目を覚ました妻が、僕の隣で目をしばたたかせている。

「悪いね、起こしちゃって。何でもない、夢なんだ」
「どんな夢だったの?」
「どんな、ううん……本当にどうということもないけど」

おかしな、というか、現実と符合しないことは取り立てて不思議なことではないはずだ。おかしなことの只中にいる間はそれと気付かないけれど、目が覚めてからはあれがおかしいこれがおかしいと矛盾が出てくる。毎夜のように頭に描いているもののはずなのに、どうして今日に限ってこんな印象を残すのか。

「学生だった、僕が。それで、誰だったか友達と一緒にいるんだけど……」
「大学時代の夢?」
「いや、多分高校だろう。友達何人かと一緒に、うちの近所でたむろしてた」

ゆっくり整理しながら話す。妻は興味があるのかないのか、話半分といった様子で聞いている。

「そのあたりはきっと本当にあったことだし、全然どうってわけじゃないんだけど」
「もう少ししたらおかしな話になってくるのかしらね」
「そうなんだ、おかしな話なんだ。途中まで現実なのに、突然空想みたいなんだ」

友人と過ごしていた僕の目の前に、一人の女の子が現れる。長い髪に隠れて顔はよく見えないけれど、僕はその子のことを知っている。知っている、どころか、彼女のことを好意的に思っている。突然現れた彼女に、僕は期待と動揺を強く抱く。彼女から、何か言葉を告げられて……。

「何だか、愛の告白をされたような感じだった。僕は、友達に冷やかされるのは嫌だったけど、そんなことどうでもいいと思って、彼女の気持ちを受け入れようとするんだ」
「素敵な夢じゃないの」
「本当のことみたいだった。本当に、その子に告白されたことがあるような気さえする」
「区別はつかないんじゃないの、夢も本当もあなたの脳の中のことよ」

妻がベッドから出て、台所へ向かう。冷蔵庫を開ける音が響いて、グラスに飲み物を注ぐ音が続く。

「それはそうなんだけど」

僕は、どうにも釈然としない気分でいる。

「そうなんだけど、あれは夢だったと、なぜか割り切れない。ずっと忘れていたことを、夢をきっかけにして思い出したような気がしてならないんだ。そんなことはないはずだ、っていうことはわかっているのに……」
「そうね、本当はそうじゃなかったはずだわ」

グラスを持って妻が戻ってくる。いっぱいまで注がれた麦茶。

「だってあなた、高校に入る前から私一筋だったじゃない」
「……そうなんだ、君以外の女性に気が向いたことはなかった。夢の中の子も、どこかで見たことがあるような気もするけど思い出せない。でも、なぜか本当にあったことのように思えて、どうしてだろうな……」
「寝たら忘れるわ」

勧められるままにグラスを空ける。一息つくと、また眠気に襲われ、僕はのろのろと夢の中へ戻っていく。寝しなに、妻が、僕が寝入っているのを確認しているようなそんな気がして、おぼろに頭を動かしていると、誰かと話しているのが聞こえた、気がした。

「……だめだわ、あなたの催眠、眠ってる間の脳はコントロールできないのね。あの人、昔のことを夢の中で思い出してるわ。もう一度やってちょうだい。どうして、って……あの人のこと愛してるからよ、初恋まで私一色に染めるなんてロマンチックじゃない?」

妻の言葉は、もう夢か本当かわからなかった。どのみち、きっと僕はこのことも忘れてしまうのだろう。夢の中に出てきた彼女は、今どうしているだろうか。いつかまた、僕は彼女のことを思い出せるだろうか。

Fin.

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