monologue : Same Old Story.

Same Old Story

仮初めの憂鬱

「いただいた贈り物を、いいものだと思って封を開けたら大したことがない」
「はあ」
「あるでしょう、期待が高かったために余計がっかりしたこと」
「まあ、あるでしょうね」
「その逆といえば逆です、物凄く単純に言うならね」

単純に言わないとしたらどうなのかと思いもしたが、多分それはどうでもよいことだったので、僕は尋ねなかった。カウンセリングといえばいいのかセラピーといえばいいのか、とにかくこの男に会って話をすることが、今の僕に必要なこととされていた。

「それで、今回は」
「あの」

尋ねる男に応える僕を、値踏みするような目で男が見る。

「上司に、言われて。最近疲れてるようだし一度ここに行って来いと」
「ははあ」
「仕事に身が入ってないようだが、ってことで。それだけなんです」
「なるほど」

何がなるほどか僕にはわからなかったが、男には合点がいったようだった。

「わかりました。ここで行えることは先程言った通り。まずがっかりするんです」
「はあ」
「眠るあなたに微弱な電流で刺激を与えて、非常に楽しくない夢を見ていただきます。目が覚めた後のあなたは、あんな夢を体現するくらいならどんな現実でもずっとまし、と思って仕事に打ち込むでしょう」
「はあ」
「さあ、準備はすぐ整います。料金も会社持ちですから、今日すぐにでも……」

言われるままに僕は男の用意した装置を使い、不快な夢を見て、釈然としないままその場を去った。そして翌日もその翌日も、上司の指示で男のところへ行き、何度も不快な夢を見た。

「いかがですか?」
「なんだかこう、はっきりとしないような……」
「不快な感覚がありますか?」
「いや、そういうわけではなくて……不快というよりは、ぼんやりと……」

少しずつ感傷的な部分が薄れていくような気がした。物事に動じなくなったというか、男の言うように、ひどい夢に比べれば現実のどんなことだってましだと思えるようになっていた。大概のことでは辛いとか悲しいとか、そう思うことはなくなっていった。

「感情が薄れるというか……これでいいのか……」
「いいのですよ。悲しいことも辛いことも、本当のこととして受け止めるには大きすぎることがあるのです」

男の言葉は相変わらずよくわからなかったが、それを不快に思うこともなくなっていった。

「それではまた」

上司に言われなくても自主的に、週一回の頻度でその夢を見ることにしていた。意外にこれが役に立つかも知れない、そう思い始めた頃、最初の夢から半年程経った頃、会社から、業績不振を理由に解雇されてしまった。失業保険があるためしばらくは生活に困らないものの、先の見えないような感覚にどうしたらよいのかわからなくなってしまった。

「あなた、どうしたの」

しかし、それほど辛くも悲しくもなかった。散々見続けた夢のおかげか、絶望することはなかった。僕を心配してくれる妻のためにも、何かやらなければいけないという気持ちにはなっていた。

「ねえあなた、ところで相談があるの」
「どうしたんだ」

妻が虚ろな目で言う。半年前の僕のように、どことなく生気のない目をしている。

「私ね、ずっと黙っていたけど、会社のお金を少し懐に入れていてね……」

横領を告白する妻はどことなく他人事のようで、これももしかしたらあの夢の副作用なのかも知れない。彼女が夢を見に行くようになって、まだ三カ月だというのに。しかしこれだけ動じなくなっていれば、僕が上司の妻と不倫関係にあって、当てつけのように解雇されたことだって問題なく受け入れられるだろう。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.