Other Stories
機械の命 : 5/7
- Go Out Without Us
- http://www.junkwork.net/stories/other/00705
「RD、具合はどうだ?」
ハジメの祖父が、カプセルの中の僕を覗き込む。彼は僕を "アールディ" とは呼ばない。いつだって "RD" と呼ぶ。発音の違いなのか他の何かが原因なのか、僕にはよくわからないけど。とにかくそう認識だけできる。
「大丈夫だよ、おじいちゃん。特に問題は見つからない」
「まだお前の日本語は少し変だな。……話があるからそこに座りなさい」
彼は僕をカプセルから引っぱり出すと、有無を言わさず椅子に座らせた。向かい合って話をするのは、大事なことを話すときのヒトの癖だ。と、何かの小説で読んだ覚えがある。
「実はなあ、ちょっと出かけねばならん用事が出来たようでなあ」
語尾を伸ばすのは、話しにくいことを話すときのヒトの癖だ。彼はどこか遠くへ行かなきゃならないんだろうか。
「ちょっと長い期間、家をあけることになるんだよ」
「ちょっと長い期間、というのは何日ですか?」
「うーん……何ヶ月か、何年か……」
「ハジメと僕は?」
「連れて行けないんだよ、残念だが。そこでだ」
彼は僕に顔を近づけて言った。
「ワシが帰ってくるまでの間、ハジメの面倒を見てやってくれないか?」
「僕に家事手伝い用のプログラムはインプットされていません」
「家事のことは何とでもなる、家事手伝い用のロボットを作ればいいんだから」
「それなら僕には仕事が与えられる必要がありません」
「お前、ワシと話すときだけは機械らしくなるなあ」
彼は少し力なく笑い、すぐにまじめな顔をして言った。
「面倒っていうのはそういうことじゃなくて、だ。ハジメの心の世話をして欲しいんだよ」
「でも心の世話、ということの方法が」
「何も気にしないでいい、一番良い友達でいてやって欲しいんだ。頼めるかい?」
「了解しました、おじいちゃん」
僕がそう言うと、彼は満足そうに頷いた。そして、もう寝るぞ、とつぶやいてあくびをした後、部屋から出て行った。
翌朝、彼はハジメ宛てに手紙を残していなくなった。