出会い、始まり
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『仮想現実の世界に、あなただけの子供を』
僕がそのソフトに目を奪われたのは、一時の気の迷いかも知れない。どう見たってそれは一昔前に流行ったタイプのゲームだったし、第一、僕のような年齢になってから遊ぶようなものでもなかった。自分の娘を育成するシミュレーションだなんて。
「でも、初めて聞くタイトルのソフトだな」
数年前までヘビーゲーマーだった僕に、聞き覚えのないゲームというのは珍しかった。寝食も忘れて没頭していた時期もあったから、いわゆるオタクというやつだったのだろう。それも結婚を機にすっかりやめてしまっていたのだが。
「まぁ時間ならあるし、久しぶりにゲームも悪くはないか」
結婚してすぐに娘が生まれて、家庭円満で幸せな日々。そんな幻想はすぐに崩れて、僕は今独りぼっちだった。妻が娘を連れて僕の元を離れていったからだ。
「秋の夜長に……ってわけでもないけど」
気晴らしに立ち寄った電気街で、偶然立ち寄った中古ゲーム専門店で、僕はこのゲームソフトに巡り会った。娘も妻もいなくなって、独りになった僕にちょうどいいじゃないか。あれもこれも質の悪い運命のせいにしてしまえば、数年前の冴えないオタクに逆戻りしたって気にすることはない。とにかく、気の紛らわせるものが欲しかった。
「ありがとうございました」
僕は深く考えることなく、そのソフトを購入していた。飽きたらやめればいい、それだけのことなのだから。そのときはまたここにでも売りに来ればいい、それだけのことなのだから。とにかく気晴らしになればいい、それだけのことなのだ。
僕はそれくらいの気持ちで、その気持ちと同じくらい軽い足取りで自宅に戻った。