真相
- Appeared
- http://www.junkwork.net/stories/other/010/013
- 送信者
***
- 宛先
murai
- 件名
未来のパパへ
- 本文
-
パパ、私を産み出してくれてありがとう。
これからもずっとずっとよろしく。
「何だこれ? パパ? 新手の援助交際か?」
当然だが、そんなことには興味はないし、身に覚えもない。ダイレクトメールにしては URL も書いてないし、企業名も書いてない。第一、本文がそんな雰囲気のものでもないように思えた。誰が何のために送ってきたのか。送信者名は隠されていた。
「いたずらにしちゃどうもいまいちだしな」
二、三分考え込んでいると、またメールが届いたと表示された。
- 送信者
***
- 宛先
murai
- 件名
ご利用ありがとうございます
- 本文
-
この度は当社のシステムをご利用いただきありがとうございます。これを持ちましてシミュレーション期間の終了といたします。今後の手続きに関しては次のメールをお待ちください。
「何なんだ、一体? シミュレーション期間?」
酔いが少しづつ覚めて、頭が働くようになってきた。シミュレーション期間、だって? 一体何のシミュレーション?
「……あのゲームだ」
育成シミュレーション。ここ数ヶ月に僕が触れたシミュレーションなんて、それくらいしか思い浮かばない。しかし、期間っていうのは一体? それが過ぎたらどうなる?
「次のメールを待つ、しかないのか」
爪を噛んでモニターと向かい合う。流し込むウィスキーは、僕の気持ちを高揚させることはなかった。
『新着メールが一件届いています』
件名も確認せずにファイルを開く。
- 送信者
***
- 宛先
murai
- 件名
今後の手続きに関して
- 本文
-
ご利用ありがとうございます。今後のことに関しては、書類を交えた手続きは一切ありません。つきましては当初の契約どおりに、あなたが育てたお子様をそちらへお届けいたします。
「……何だって?」
『育成に関してはもう心配ございません、あなたが今までされたようにすればよいのです』
「…………」
『そのために必要な物品は今までにお届けしました』
「これは、このソフトは」
『あなたがシミュレーションを開始した日に受精した卵が、クローニング技術によって、今日までに五歳を迎えました』
「つまり、育成シミュレーションっていうのは」
『そう、あなたがゲームを開始したように、今度は現実であなたの子供を育てるのです』
なんてこった。本当にこれは「育成シミュレーション」だったのか。一般に出回らないわけも、倫理委員会だか何だかが騒いだわけも、法外な値段がかかるってことも、全てが一気に頭の中を駆け巡った。そうか、これは、仮想世界で育てた子を現実にするシステムなのか。
「なんてこった、すぐに何とか……」
そのとき、宅配便です、という声が聞こえた。子供を届ける、だって?
チャイルドメイカーのゲーム画面には、もう "アリス" の姿はなかった。
The End.