助言
- Friend Says
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その後、僕は三日ほどパソコンに触れなかった。正直な話、なんだか薄気味が悪くて、暇つぶしだゲームだと無邪気でいる気にはなれなかった。無邪気でいる気、っていうのも何だかおかしな話だけど。
会社の同僚の奈良崎という男に、このゲームについて何か知らないか、と聞いてみた。
「チャイルドメイカー? いつのゲームだよそれ?」
「何か知ってるのか? 何でもいいから教えてくれよ」
「どこかで聞いた覚えはあるんだけどな……何だっけ。思い出せないや」
「忘れたんじゃ仕方ないか。何か思い出したらよろしく頼む」
「ああ、きっと連絡するよ」
奈良崎も根っからのゲーム好きで、年間二十本強のゲームをプレイしている、などと豪語している。僕が結婚する前はよくゲームの話をしたのだけれど、結婚を機に僕がほとんどゲームをしなくなったものだから、久しぶりにその手の話を持ちかけられた彼は嬉しそうだった。彼の家にはここ数年のゲーム雑誌もあることだし、そのうち何か思い出すだろう。
「ただいま」
誰もいない部屋に帰り、誰もいない空間に呼びかける。出迎えてくれる人がいないことにも、もうだいぶ慣れた。でもそのときは妙に違和感を覚えて、急いで靴を脱ぎ捨てて部屋に駆け込んだ。泥棒でも入り込んだかと身構える僕の目に映ったのは、全く予測していない状況だった。
「……なんだこりゃ? いつ電源入れたんだっけ?」
覚えはないのにパソコンの電源が入っていて、例のソフトが起動されていた。そして画面にはあの青いドレスを着た "アリス" と、メッセージがひとつ。
『お帰りなさいパパ、ご飯がないからお腹空いちゃった』
「……誰だ? 誰がいじったんだ? 空き巣?……まさか」
そのとき携帯が鳴り、誰かが用事でもあるらしいことを知らせた。
「はいもしもし……ああ、奈良崎か。実は例のゲームなんだけど」
「ああ、俺もちょうどそのことで電話したんだ」
彼は何か見つけたようで、僕はとりあえず彼に情報提供を促した。
「そのゲームな、どこか大手のメーカーが秘密裏に制作してたらしいんだよ。子供のいない金持ち相手に子育ての疑似体験をさせるとかで、その会社が独自に制作した名簿か何かに登録されてた、ごく一部の人間にしか配布されなかったって話だ」
「ってことは」
「そこにあるのは流出物、ってことだな。まぁ全部噂の域を出ない話ってことも確かなんだけど」
どこか大手のメーカー? 秘密裏に制作? 僕は、今目の前で起こっていることを彼に話してみた。
「なに? そのキャラクターが、空腹を伝えるためにパソコンを勝手に起動したって?」
そう言って彼は大笑いした。僕は頭からバカ扱いされたようで面白くなくて、一方的に電話を切った。パソコンと向かい合って、"アリス" に会話を持ちかけてみる。
『パソコンを動かしたのは君かい?』
『パソコンって何? ねぇパパ、アリスお腹が空いたの』
「話なんか通じるわけないよな、ゲームなんだから」
僕は適当に食べ物を買い与えると、さっさとパソコンの電源を落としてしまった。とりあえず様子見の段階、まだ結論を出すには早い。
結論? 何の結論? 僕がこのゲームを売り払うかどうかの、だろうか。