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チャイルドメイカー

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  11. 忠告
  12. 幸せへ向けて
  13. 真相

おかしな噂

妻と約束していた週末まであと二日、自然と仕事に向かう姿勢にも力がこもる。

「村井、あのゲームな」

奈良崎が突然、小声で話しかけてきた。僕はあまりに機嫌が良かったので、つい仕事中にも関わらず大声で返事をした。

「ゲーム? ああ、あれのことか」
「声が大きい、課長に気付かれたらどうするんだよ」

二人でいたずらっこのように課長を盗み見る。幸い、僕らが雑談をしていることなど気付いていない様子だった。

「で、あのゲームがどうしたんだ? コピーしてくれって?」
「そうじゃない」
「なんならお前に譲るよ、あのゲーム。どうも最近、ゲームに熱意持てなくなってて」

熱意が持てないくらいに、二日後の話し合いが楽しみなのだ。娘に会うのはどれだけぶりだろう、それを想像するだけでニヤケ顔になってしまう。

「そうじゃなくて、あのゲーム、どこかおかしい」
「そんなの前から言ってるだろう。勝手に PC 起動したり、郵便小包で」

そこまで言ってハッとなった。奈良崎には、"アリス" の物が郵便小包で届けられることは一切教えていない。

「郵便?……なんだか知らんが、あのゲームはおかしいんだよ」
「詳しく説明してくれよ、何がおかしいっていうんだ」
「まずあのゲーム、制作元が定かじゃない」
「はぁ?」

僕の間の抜けた声は、今度は課長にしっかり聞こえたようだった。課長は黒枠のめがねをつまんで、僕をじっとにらんだ。奈良崎のデスクから、小さな紙のかたまりが放り込まれる。広げてみるとそれは一枚のメモで、どうやら筆談でもするつもりらしかった。

" 前に制作元は有名なメーカーだって書いたが、オフィシャルサイトにはあのゲームのことは一切載ってない "
" 冗談言えよ、僕はまずパッチをダウンロードしたんだぜ "
" 昨晩、サポート掲示板に書き込もうとしたら、あのタイトルは禁止語句になってるみたいだった "
" メーカー側が何かの意図で隠してるってことか? "
" それともうひとつ、気になる噂もみつけた "

僕と奈良崎のデスクの間で、ゴミくずみたいなメモのキャッチボールが続く。課長は、と見ると、どうやら女性社員に色目でも使っているらしい。バカ課長め、日本と会社と自分の将来を少しは心配しやがれ。

" 家庭ゲーム世代のごく初期に、アメリカで自殺者が続出したっていうゲームを知ってるか? "

奈良崎からのメモはとたんに物騒な内容になった。そのゲームは、確か……迷宮内を化け物退治する RPG で、主人公と自分を混同(錯覚)したために、主人公が死ぬと自ら死んでしまうゲーマーが続出、とか。確かそんな感じの話だったか、うろ覚えだけれど。

" それがどうかしたのか? "
" そのときに猛反発した、倫理委員会と父母の会みたいなものがあるんだが "
「村井くん、それは何かね?」

ハッとなって振り向くと、そこには課長の姿があった。

「いやその、会社の内情調査っていうか、まぁ個人的なものです」
「今は勤務中だってわかってるんだろうな? 全く、少しは自分の将来のことを心配したまえ」

振り向いてデスクに戻っていく課長に舌を出して、自分のデスクに向かい直す。そこには奈良崎からもう一枚、ちょっと長いメモが置いてあった。

その会のお偉い連中が一斉に、このゲームが出回ったと思われる数ヶ月後に大騒ぎしてる。理由は何だかよくわかってないが、仮想と現実の敷居を犯す重大な犯罪だ、とかわめきたてたらしい。どこの会社を名指しにしたわけでもないからすぐに立ち消えたが、その後この会の幹部は総入れ替えしてるんだよ。この話、奇妙すぎるとは思わないか?

どこで調べてくるのかわからないような情報量に、僕はただ圧倒されるばかりだった。つまりは、危ない感じがするから手をひけ、ってことか。奈良崎を見ると、彼は首の下で人差し指を左右に振って見せた。

To Be Continued